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最高裁判所第二小法廷 昭和23年(れ)1811号 判決

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人入野梅次郎の上告趣意第一點について。

原判決は、被告人は、本件アルコールは、賣主矢本新平が、今次終戰當時飛行場から貰い受けたものであること、かつ、右はドラム缶に入っていたものであることを右矢本から聞いたり、又、現に見たりして知っていた事実を確定し、さらに、被告人は、メチルアルコールを飲んで死んだり失明したりした人のあることを人から聞いて知っていた事実を確定した上、右のようなアルコールを飲用に供するために他人に賣渡すには、専門家の鑑定を受けるなど科学的方法によって、法令の許容する率(一立方糎中一瓱以下)を超えたメタノールを含有するものではないことを確めた上でなければこれを賣渡してはならない注意義務があると判示したのである。かくのごときアルコールを他に飲用として販賣するには、信頼するに足る確実な方法によって、その成分を檢査し飲用して差し支えないものであることを確かめ、飲用者に不測の身體障害を起させることのないように注意しなければならないことは勿論であって、これは、現在の我国一般の科学的知識の下においても、通常人のとるべき注意義務であるといわなければならない。原判決の判示するところも、如上の趣意に外ならないのであって、かりに所論のごとく附近に容易に専門家の科学的鑑定を受けられる施設がないとしても、それがために、この注意義務を怠ってさしつかえないというものではない。又、右は、普通一般人に課せられた義務であって、所論のごとく特殊藥物業者にのみ要求せられるところではない。被告人が所論のごとく、特に、かゝる注意義務の負荷に堪えない低能者であるということは原判決の確定せざるところである。論旨は、すべて理由がない。(その他の判決理由は省略する。)

よって、刑訴施行法第二條、舊刑訴第四四六條に從い主文のごとく判決する。

右は、全裁判官一致の意見である。

(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎)

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